2003年09月17日(水) 12時41分

春秋（日経新聞）

　凶悪で不可解な事件が、これでもかと続く。しかも衆人環視の劇場型惨事。ちぎれたブラインド、飛散する書類が、仕事の場としての現実を生々しく伝える。巻き添えとなった人々の無念さに言葉もない。

▼立てこもりの動機ははっきりしないが、犯人とされる男の仕事から運送業界のアウトソーシング事情がうかがえた気もする。お役所流に言うと貨物軽自動車運送事業。個人でも1人親方として開業できる。ナンバープレートは黒地に黄色だ。

▼きのう都心でタクシーに２キロほど乗ったら、個人とフランチャイズ契約を結ぶ有名業者の軽トラック６台とすれ違った。委託された個人も含め事業者数は約14万。一部バイク便も含む数だが、不況下で競争が激しさを増す中、トラックドライバーの外部化は運送業者には魅力なのだろう。求人誌にも「軽貨物独立ドライバー募集・月額39万円以上」などの文字が躍る。

▼むろん、いい話ばかりとは限らない。後で軽トラックの購入が条件と知ったなど、契約トラブルの報告もある。仮に会社のノルマが過酷でなくても、歩合制という落とし穴が待ち受ける。犯人は仕事熱心とはいえず、収入も平均をかなり下回ったそうだ。ビルの爆発が予想外だったように、業界の厳しさも読めなかったのかもしれない。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20030917MS3M1700917092003.html