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2003年09月12日(金) 00時00分

脅迫テロ 異論封じの風潮は危険 東京新聞

 人気の高い政治家のテロ容認発言は戦前、戦中を想起させる。迫害を恐れずに、周囲の大勢と違う言動もできる風通しの良さが社会の健全性を守る。最近の日本はその余裕が失われていないか。

 田中均外務審議官の自宅に発火物が仕掛けられた事件は、捜査当局の調べや新聞社にかかってきた電話の内容などによると、田中氏の対北朝鮮対応に反発する勢力による脅迫とみられる。明らかなテロ行為だ。

 野中広務・元自民党幹事長の事務所にも銃弾入りの郵便物が届いた。在日本朝鮮人総連合会の施設を狙った犯行も相次いでいる。早急な容疑者逮捕が望まれる。

 独自ルートを利用するなどして北朝鮮に弾力的な構えをとってきた田中審議官の姿勢についてはいろいろな議論が起きている。「国賊」などの誹謗(ひぼう)中傷も飛び交っている。

 官僚に対する批判が活発なのは悪いことではない。非道きわまる拉致を実行しただけでなく、開き直り、核を使って国際社会を脅す北朝鮮に厳しく対処するのも当然である。

 しかし、自分とは違う意見、方針をテロで阻もうとするのは卑劣だ。発火物を仕掛けられたことを「あったり前」と公言した石原慎太郎東京都知事も同罪と言わざるを得ない。

 さすがに石原知事も釈明はしたが、多くの国民に受け入れられると安易に考えたのではないか。拉致問題を契機に国家意識が急速に高まっている感があるからだ。北朝鮮に甘い姿勢をとるのは禁物だが、物言えばくちびる寒しの風潮も危ない。

 北朝鮮問題に限らない。イラク戦争でも同様だ。昨今の犯罪に関しても被害者の意に沿わない行動や主張は激しい非難を受けることが多い。

 異論を唱えにくい社会が危険なことは歴史を振り返れば明らかだが、9・11後の米国社会を冷静に見ることも参考になる。

 テロリストへの報復や戦争に批判的なジャーナリスト、学者が集中攻撃を浴びて沈黙させられる中で、ブッシュ政権は国民の高い支持率を背景に、アフガニスタン、イラク両戦争に踏み切った。アラブ系留学生を逮捕状なしで拘束できる法律も制定され、いまやアラブ系住民にとり「自由の国アメリカ」は幻想だ。

 その米国はいま、イラクの復興、治安安定などをめぐって深刻な悩みを抱え込んでいる。

 異論のぶっつけ合いは真理の発見につながるだけでなく、既に発見されている真理をさらに確かなものにする。一色に染まった社会、暴力を容認する社会が健全であろうはずはない。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20030912/col_____sha_____002.shtml