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2003年09月10日(水) 18時04分

ドラッグ『エクスタシー』が脳損傷を引き起こすという研究結果は間違いと判明WIRED

 1年前、『エクスタシー』の名前で一般に知られている麻薬『MDMA』(メチレンジオキシメタンフェタミン)がパーキンソン病に似た脳の損傷を起こす恐れがあるという http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20021003307.html 驚くべき研究結果(日本語版記事)を発表した科学者が、発表を撤回した。

 研究を行なったジョンズ・ホプキンズ大学医学部のジョージ・リコート教授は、実験で霊長類の動物に投与されたのはエクスタシーではなく『メタンフェタミン』だったと述べた。

 科学雑誌『サイエンス』の2002年9月27日号で発表された研究では、娯楽目的で使う場合の1回分の通常投薬量でも、MDMAが重度の脳の損傷を引き起こす恐れがあるとされていた。米国の科学界は研究を称賛し、エクスタシーに手を出さないよう若者に警告した。だが今回、リコート教授は薬瓶の中身が違っていたことを明らかにした。

 「実験で1匹を除くすべての動物に投与された薬物は、投与するつもりだったMDMA(エクスタシー)ではなく、メタンフェタミンが入った瓶のものであることが最近になって判明したため、『娯楽目的で使う場合の一般的な投薬量のMDMAを投与後、霊長類の動物に重度のドーパミン作用性の神経毒症状[ドーパミンを分泌するニューロン(神経細胞)が破壊される現象。ドーパミンは動作や情動反応、そして快楽や痛みを感じる能力を制御する]が見られた』という発表を撤回する」と、リコート教授はサイエンス誌掲載予定の撤回文の中で述べている。

 リコート教授の研究室は実験を始める直前、ある納入業者にメタンフェタミンとMDMAを1セットづつ、同じ日に注文した。撤回文によれば、それぞれのボトルのラベルが入れ替わっていたという。

 リコート教授がラベルの貼り間違いに気づいたのは、2002年9月に発表した研究結果を再現しようと何度も実験を行なった結果だという。研究を進めても霊長動物に前回と同じ脳の損傷が見られなかったので、何かが間違っているのではないかと疑いはじめた。

 リコート教授は実験の手順をさかのぼり、MDMAが入っていると考えられていた瓶といっしょに納入された瓶を調べ、メタンフェタミンではなくMDMAが入っているのを発見した。MDMAのラベルが貼られた瓶はすでに空になっていたが、実験で使用された一部のサルの脳が凍結保存されていた。これらの脳を調べたところ、メタンフェタミンが残留しており、MDMAは全く検出されなかった。

 リコート教授とジョンズ・ホプキンズ大学は、前回の研究結果は正しくないが、MDMAの服用がさまざまなタイプの脳の損傷を引き起こす可能性を示した他の研究は、依然として信頼できると指摘している。

 「ラベルの貼り間違いがあったのは不運だ。しかし、世界中の多くの研究所で行なわれてきた数多くの研究でも、複数種の霊長類をはじめとする各種の動物に娯楽目的で使う量のMDMAを投与したところ、セロトニン神経毒症状を引き起こす恐れがあることを示す結果が出ており、今回のことがこうした研究結果に傷をつけることは決してない」とジョンズ・ホプキンズ大学は声明の中で述べている。

 だが、今回の一件はリコート教授の研究すべてを再審査すべきであることを示しているという批判の声もある。

 「これ(撤回)は、リコート教授がMDMAによる悪影響を前面に押し出そうと熱心になりすぎて、自説に矛盾する証拠を無視してきたことを示している」と、フロリダ州サラソタの http://www.maps.org/ 幻覚剤学際研究学会(MAPS)のリック・ダブリン会長は語る。

 これまでの人体研究から、エクスタシーがパーキンソン病を引き起こすものでないことはすでに判明している、とダブリン会長は話す。

 一方でリコート教授は、最近の研究の中にはMDMAがパーキンソン病に似た脳の損傷を引き起こす予備的な証拠を示しているものもあるが、決定的な証拠ではないとも述べている。

 「MDMAが霊長類にドーパミン作用性の神経毒症状をもたらす可能性について、さらに入念な調査が可能になるまでは、不確定な可能性というに留まる」とリコート教授は撤回文の中で述べている。

 撤回文が発表される以前にも、通常MDMAは経口摂取されるので、リコート教授が採用した注射による投与は、一般的なMDMAの服用量の正確な研究モデルではないと考える複数の団体が、教授の研究を批判していた。

 ダブリン会長は、米食品医薬品局(FDA)から承認を受けた、MDMAの治療効果を調べる初の臨床試験に http://www.maps.org/research/mdmaplan.html 資金提供している。ダブリン会長は、2週間以内に研究に対する最終的な承認が得られると見ている。

 エクスタシーは、多幸感や興奮、共感などを呼び起こすため、多くのセラピストは、 http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20001113204.html 心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの心理的問題を抱えている患者の治療(日本語版記事)に使えるかもしれないと考えている。

[日本語版:矢倉美登里/高森郁哉]日本語版関連記事

http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20021003307.html ドラッグ『エクスタシー』にパーキンソン症候群を引き起こす可能性

http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20011213307.html ドラッグ『エクスタシー』は医薬品として認可されるか

http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20010207204.html ドラッグ『エクスタシー』は5年以内に合法化される?

http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20001113204.html 心理療法での幻覚剤使用は是か非か


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