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2003年09月03日(水) 17時30分

憶測を呼ぶ「タイムマシンの部品買います」スパムメールWIRED

 アイオワ州在住のコンピューター・プログラマー、デイブ・ヒル氏はこの夏、電子メールの受信箱に毎日のように断りなく送られてくる月並みなスパムにまぎれた1通を見たとき、ちょっとした新鮮な驚きを覚えた。それは、ローンの勧誘や、ペニスを大きくする薬やダイエット製品などを売り込む広告とは全く違い、まるでSFの世界から届いたようなメッセージだった。

 この匿名のメールには、タイムトラベルを実現する貴重な装置をすぐに送ってくれる人に5000ドルを支払うと書かれていた。メールの送り主が欲しがっている怪しげな装置のリストには、「時間転移機能を組み込んだ時間変換受容器の『アクメ5X24』シリーズ」や「『GRC79』誘導モーターを内蔵した『AMD次元ワープ発生装置』」などがあった。

 ヒル氏は、毎日ほとんど見もせずに20通以上のジャンクメールを消去しているが、このときばかりは返信ボタンを押してしまった。

 「すごくとっぴな内容だったので、返信せずにいられなかった。『お望みの品をご用意できます』というメールを送ってしまった」とヒル氏は語る。

 こうしてヒル氏は、2001年末からこのメッセージを受け取っていた多くのインターネット・ユーザーと同様に、一部で「タイムトラベル・スパマー」と呼ばれる謎の男の奇妙な世界に足を踏み入れた。

 ヒル氏は器用に『フォトショップ』を操り、『ボブ・ホワイト』と名乗る送信者が求める一連のSFアイテムを提供する http://www.davesplanet.net/store/ オンライン販売サイトを作り上げた。7月には、「ワープ発生装置」と称する古いハードディスクのモーターを、米ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)社の宅配便でホワイト氏の住所に送りさえした。

 しかし数日後に、ホワイト氏から装置のお礼の返事が届き、他の装置の入手を手伝ってほしいと熱心に依頼されたとき、ヒル氏は面白半分の芝居をやめることにした。

 「そのとき私は、こちらがただの冗談だよと言えば、彼がオチをつけてくれるはずだと期待していた」とヒル氏。だが、ヒル氏は次第に心配になってきた。ホワイト氏のことを「現実にさいなまれ、われわれの思いやりと支援を必要としている人間」なのではないかと思いはじめたのだ。

 その後、ヒル氏の予感は正しかったことが明らかになる。調査の結果、タイムトラベル・スパマーは、時間をさかのぼれる技術を大真面目で求めていることがわかったのだ。

 インターネット上の手掛かりを追跡した結果、このタイムトラベル・メッセージを送信したのはマサチューセッツ州ウォーバーンに住むロバート・『ロビー』・トディーノ氏(22歳)だとわかった。8月後半に電話で行なった取材の中で、ロビー・トディーノ氏は、2001年11月以来この奇妙なメッセージを1億通近く送ったことを認めた。

 「私の一挙一動を監視している連中がいて、いつだって私には勝ち目がなさそうなので、何をやっても無駄のような気がする。だが、これは私にとって現時点で唯一可能なコミュニケーション手段なのだ」とロビー・トディーノ氏は話す。

 父親のロバート・トディーノ・シニアさんは、悪意あるネットユーザーが息子の「心理的な問題」を食い物にしてお金を巻き上げていることを憂慮している。

 「一部の人々が息子につけこんで装置を売りつけようとしていることが悩みの種だ。息子は多くの金をつぎ込み、そのせいで傷ついている」とトディーノ・シニアさんは語る。

 しかしロビー・トディーノ氏は、自身が「完全に正気」であり、求めているタイムトラベル技術はどこかにあるのだと主張している。

 「私が求めている装置は馬鹿げているとか、この世には存在しないと言う人はたくさんいるだろう。しかし私には、それが本当に実在するのだとわかっている。知識不足だと私の言うことは信用できないだろうが、それは私が連絡を取っている情報源を知らないからだ」

 情報源のことはともかく、ロビー・トディーノ氏が最近送っているスパムは、科学の法則に反しているらしいというだけではなく、マサチューセッツ州による2001年の法的措置を無視している可能性もある。

 2001年8月、マサチューセッツ州の検事総長は、ロビー・トディーノ氏の会社である http://web.archive.org/web/20001004043659/http://www.rtmarketing.com/ 米RTマーケティング社に対し、「無料の政府補助金」と「検知ソフトウェア」に関する虚偽の電子メール広告の送信を http://www.ago.state.ma.us/txt/rtmarket.htm 中止するよう命じた。

 マサチューセッツ州の規制当局が初めて発動した反スパム命令であるこの「中止の確約」の協定に基づき、ロビー・トディーノ氏は、罰金5000ドルの支払いと「誤解を招く虚偽の」スパム行為を中止することに同意した。

 その後まもなく、ロビー・トディーノ氏によるタイムトラベル・スパムの第一波がインターネットを襲った。2001年11月、同氏は『Robby0809@aol.com』という『アメリカ・オンライン』(AOL)のメールアドレスを使って、『Time Travelers PLEASE HELP』(タイムトラベラーたちへ、援助願う)という件名の匿名 http://www.adultvideoondemand.com/adultvideoondemand.html 電子メールを数千通送信した。

 このメッセージは「タイムトラベラー、あるいは人間のふりをした宇宙人」に向けて、自身の生活への「著しい干渉」が続いていること、問題を正すために「時間をさかのぼる」必要があることを訴えていた。

 2001年12月には、 http://www.geocities.com/dictatoroftheuniverse/story.html 『ロビー』という署名が添えられた長文のメッセージが、多数のインターネット・ユーザーのもとに届きはじめた。送信者は、子どものときに父親がつきあっていた女性から毒を盛られた体験を語り、「子どものときに盗まれたもの、すなわち私の人生を取り返す」ことに手を貸してくれる「タイムトラベラー」が必要なのだと書いている。

 それ以来、タイムマシンのメーカーを装った多くのネットユーザーが、ボブ・ホワイトや『ティム・ジョーンズ』などと名乗るスパムの送信者と http://www.smooshspace.com/weblog/archive/000284.html オンラインで会話を交わしている。

 一部のネットユーザーは、このスパム送信者は小説の題材を調べているSF作家だという推測をメーリングリストで披露している。あるいは、有効なメールアドレスを調べようとするスパム業者のずる賢い手口だという見方を示す者もいる。

 最多数派の意見は、ただ面白がって送っているだけだというものだった。いたずら好きの人々の中には、いっしょに楽しむつもりで、この奇妙なメッセージに応える http://cgi.ebay.com/ws/eBayISAPI.dll?ViewItem&item=3032445202&category=294 インチキの装置を『イーベイ』のオークションに出品した人もいる。

 マサチューセッツ州検事局の職員は、ロビー・トディーノ氏の会社が2001年の協定に従っているかどうかを確かめるため、継続して同氏のオンライン活動を監視していると述べた。だが、どのような情報を得ているかについては明かさなかった。

 ロビー・トディーノ氏は、マサチューセッツ州当局から中止命令を受けた直後の2001年秋に、PKマーケティング社の名義で商業目的のスパムの送信を再開したことを認めている。

 PKマーケティング社のスパム送信数は、今年の春に頂点に達した。このときロビー・トディーノ氏は、自社のサイト『grantgiveawayprogram.com』で「無料で現金の政府助成金」が得られることを宣伝する数百万通の http://mailman.boxedpenguin.com/pipermail/debian-kerberos/2003-April/000717.html メッセージを送信したのだ。

 「スパム反対派を避けるために」身元を隠したいと述べているロビー・トディーノ氏だが、不思議なことに、PKマーケティング社とタイムトラベル・スパムを切り離す努力はほとんどしていない。

 たとえば、 http://www.childsupportanalysis.co.uk/guest_contributions/dwg_strill.htm 次元ワープ発生装置を求める7月のメールでは、詳しい情報を知りたい人のために同社の『federalfundingprogram.com』サイトのメールアドレスを掲載している。

 インターネットで広く出回ることになった次の電子メールは、緯度と経度を記したウォーバーンの地図を載せ、7月27日午後3時(米東部標準時)にその地点へ次元ワープ発生装置を「テレポート」させるよう指示していた。このメッセージに刺激されたのか、装置の受け渡し場所に出向いた受信者もいたようだが、いかなる超常現象も起きなかったと http://www.inertramblings.com/archives/000250.html 報告されている。

 ロビー・トディーノ氏は、「陰謀」の干渉がなければ、すでにタイムトラベル装置を入手していたはずだと語った。

 「絶えず監視している勢力が存在し、誰かがこの地点に物を送ろうとしても必ず妨害されてしまう。しかし、銀河系間の運び屋には、私に装置を送る手段を持っている者たちがいる。求め続ければ、きっと得られると確信している」とロビー・トディーノ氏は語った。

[日本語版:鎌田真由子/高森郁哉]日本語版関連記事

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(WIRED)

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