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2003年09月01日(月) 00時00分

台頭するイスラム過激派 アルカイダの影消えず 東京新聞

 イラク情勢の悪化が著しい。二十九日には中部ナジャフの聖廟(せいびょう)でも爆弾テロが起きた。サウジアラビアをたたき出されたイスラム急進派が流入し、テロ組織「アルカイダ」が台頭しているもようだ。旧政権が抑えていたイスラム過激派という「パンドラの箱」を開けた米国は、底なしの泥沼でもがいている。 (田原拓治)

 ■国連事務所爆破続々と犯行声明

 イラクでは米英軍へのゲリラ攻撃に加え八月、ヨルダン大使館、国連事務所が爆弾テロに襲われた。

 国連事務所爆破は、アラブ首長国連邦(UAE)の衛星放送「アルアラビーヤ」に「(預言者)ムハンマド第二軍団前衛隊」と名乗る集団が「イラクの老若男女が殺害されたとき、国連は何をしていたのか」と犯行声明を送った。これとは別に、ネット上でもアルカイダの分隊という「アブ・ハフス・アルマスリ軍団」が犯行を書き込んでいた。

 事件前には「ムスリム青年・ムハンマド軍」や「イラク愛国・イスラム抵抗運動」を自称する組織がテレビ局に「毎月三百人の米兵を殺す」「旧政権とは無縁」などと主張する戦闘服姿のビデオを送りつけた。

 しかし、これら組織はいずれも無名だ。爆弾テロは実際にはだれの仕業なのか。米国、アラブ世界では(1)旧政権の残党(2)イスラム過激派(3)米国の自作自演−という三説が挙がっている。

 自作自演説は、米軍需産業の利益とイラクの反米運動への弾圧を狙ってというのが理由だ。だがイラク戦争を推進した米国・新保守主義(ネオコン)派にとっても、将来の中東戦略にはイラクの安定が必要なので可能性は薄い。

 残党説は、二つの爆破に使われたトラックが旧東欧製で爆薬も旧ソ連製だったことが根拠だ。だが、ヨルダンはフセイン大統領の二人の娘の家族を保護しており、ヨルダン大使館を狙うという構図は無理がある。

 そこで有力視されるのがイスラム教スンニ派の過激派説だ。イラク紙アルザマンによると、同国北部を拠点とし、アルカイダ傘下とされる「アンサール・イスラム(イスラム信奉者)」のメンバーらが戦後、バグダッド方面に移動した。指導者のヨルダン人は祖国で死刑判決を受けている。

 ■サウド王家転換「一掃」乗り出す

 さらに隣国サウジアラビアでは歴史的な大転換を迎えている。ことし五月の首都リヤドでの爆弾テロ(二十九人死亡)以来、これまで暗黙の了解だったイスラム過激派とサウド王家の蜜月が崩れ、王家が「過激派一掃」に乗り出した。

 八月十八日付の英紙フィナンシャル・タイムズによると、サウジの反体制活動家サアド・アルファキーハ氏は「過去二カ月間で三千人の過激派がサウジで所在不明になり」「バグダッドに安全な隠れ家を提供された」と述べている。

 エジプト人識者は本紙の電話取材に「自爆テロの手法といい、国連も米国の支配の手先とみるのはアルカイダの論理だ」と話した。英紙サンデー・タイムズは「アルカイダ幹部が旧政権情報部員を巻き込み、サウジ人を指導者に五千人規模の『預言者ムハンマド軍』を創設した」と報じた。

 ■国内組織、サウジ亡命組と合体か

 元来、国内に根のある「アンサール・イスラム」とウサマ・ビンラディン氏らと同じサウジ人過激派が合体した可能性が高い。

 イラク北部のクルド人勢力は現在まで米国と協調している。では国内人口の六割を占め、情勢のかぎを握るシーア派の動向は−。

 現在、シーア派は(1)イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)(2)ダアワ党(3)アルサドル派(4)アルシスターニ師とその信奉者(5)アマル−の主要五グループが競合している。

 このうち、SCIRIとダアワ党は米国を批判しつつも、米国主導の統治評議会(二十五人)に加わっており、シスターニ師は伝統的に政治と距離を置いている。アマル(指導者・シーラーズ師)は小グループで影響力は弱い。だが、三十歳のムクタダ・アルサドル師は反米色が極めて濃い。

 アルサドル師の父親ムハンマド・サーデク・アルサドル師はSCIRIがイランに亡命中、反フセイン活動の旗頭で一九九九年二月に旧政権に暗殺された。

 ■アルサドル師人気は高いが…

 それだけに息子のアルサドル師は人気も高く「統治評議会は米国の手先」「宗教軍を創設せよ」と反米活動を鼓舞する。SCIRIに対するライバル心も強く、八月二十九日に爆殺されたSCIRI指導者バキル・ハキム師を非難していた。

 さらに八月十七日付の米紙ワシントン・ポストはバグダッド陥落後、UAEから帰国したスンニ派で人気のある反米聖職者アハマド・クベイシー師が異例にも宗派を超え、アルサドル師を援助していると伝えた。

 ■『反米』ライバル心に火

 ただ、日大国際関係学部の松永泰行助教授は「アルサドル師は政治家としては未熟でやんちゃ」と語る。その上で「その点、老かいさを備えたハキム師が、シーア派を束ねられる唯一の政治家だった。彼が殺された真空状態で、アルサドル師のような展望のない過激な反米主義が、シーア派社会に広がる可能性は否定できない」と指摘する。

 米軍はイラク国内に十四万人が駐留し、英軍の一万一千人を筆頭に米国を除く二十七カ国から二万一千人が派遣されている。

 ■さらに治安悪化、不満頂点

 だが、バグダッドでは旧情報機関による富裕層を狙った誘拐事件が多発する。さらにニューヨークより多い一日四十件もの殺人事件が発生するなど、治安状況の悪化は著しい。

 しかし、ラムズフェルド米国防長官らは、米軍の増派は不必要としている。国連主導の多国籍軍の派遣やイラク国軍の再建が選択肢として挙げられるが、国連主導は米国に批判的なフランスやロシアの介入を招くと米国は否定的で、国軍再建は試算では来年末までに訓練が施せるのは約五万人と、とても足りない。

 電力も、必要需要の六千メガワットの約半分の三千二百メガワットしか供給されていない。治安と併せて国民の不満は沸点に達しつつある。

 財政的にも月四十億ドルの米軍駐留費を含め、ブレマー文民行政官が「復興には数百億ドルが必要」と言明した。しかし、頼みのトルコ経由の原油輸出もパイプラインが爆破され、一日七百万ドルの喪失と展望は暗い。

 米ネオコン派の機関誌ともいえる「ウイークリー・スタンダード」誌は「ミスを犯すな」と題した論説で「イラクの統治がうまくいくか否かで、米外交政策の将来コースが決まる」と焦りをにじませている。

 シーア派情勢とともに、旧政権時代に抑えられていたスンニ派過激派の動向も大きな不安材料だ。米国はイラク戦争開戦前にその動機付けとして、その代表格であるアルカイダとフセイン政権の関係を宣伝しようとした。だが、この根拠を示せず、さらに疑問が残る破壊兵器を理由とした。

 しかし、イラク戦争によって逆にアルカイダに戦場を与えてしまった。結局、「オオカミ少年」の物語のように口実が現実になる皮肉な結果を招いている。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030901/mng_____tokuho__000.shtml