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2003年08月29日(金) 15時21分

<院内感染>病院長らを書類送検 薬液が感染源 警視庁毎日新聞

 東京都世田谷区の伊藤脳神経外科病院=伊藤誠康院長(46)=で01年12月から翌月にかけ、セラチア菌が原因とみられる集団感染で患者24人が発熱しうち7人が敗血症などで死亡した事故で、警視庁捜査1課と北沢署は29日、伊藤院長と当時の看護師長(71)を業務上過失致死傷容疑で書類送検した。点滴を一時中断する際に使った薬液が感染源とほぼ特定し、衛生管理を徹底しなかった院長らに責任あると判断した。警察庁によると、院内感染で病院長が立件されるのは初めて。

 伊藤院長らは「院内感染の対策が不備だった。責任を感じている」と容疑を認めている。

 調べでは、伊藤院長らは清潔保持や看護師らの指導を徹底して院内感染を防ぐ義務を怠った。そのため02年1月8日から16日までの間、点滴中断の際の処置である「ヘパリンロック」に使用する薬液「へパリン加生理食塩水」を作製した際に、看護師の手などを通じセラチア菌が混入。この薬液を投与した当時70歳の女性ら6人の患者を敗血症性ショック死させ、当時68歳の男性ら6人に傷害を負わせた疑い。

 ヘパリンロックは、血管に刺したまま残す「留置針」内に、血液の逆流や凝固を防ぐヘパリン加生理食塩水を満たす日常的な行為。薬液は、ナースステーションの手洗い用流しのそばにある点滴調整台で看護師らがつくり、室温で保存していた。

 発症した患者らに実際に使われた薬液は残っていないが、流し脇の水切りかごの下に敷かれたタオルからセラチア菌が検出され、死亡した患者らの菌とDNAが一致した。このため同課は、セラチア菌に汚染された薬液が感染源で、患者らは留置針を通じて血流感染したとみている。

 流しでは使用済み医療器具の洗浄もされており、近くには廃棄物を入れる容器もあった。また、看護師らは高い殺菌効果のある消毒液での手洗いをしていなかった。同課はこうした不衛生な環境を放置していたことが院内感染につながったとみている。

 24人は01年12月28日〜02年1月14日に発症し、当時24歳から91歳までの男女7人が死亡した。今回はセラチア菌が検出されDNAが一致した12人分について立件した。【草野和彦、川辺康広、長谷川豊】

 ◇「原因究明を」遺族ら期待

 「なぜ母が死ななければならなかったのか」。同病院で死亡した看護師、飯島ミネ子さん(当時70歳)の長女の仁美さん(38)は、いまだに当時の状況について病院側から明確な説明を受けていない。伊藤院長と看護師長の書類送検に「ようやく事実の解明に向け一歩踏み出した。原因を徹底的に明らかにしてほしい」と期待を寄せる。

 ミネ子さんは01年12月22日、世田谷区の自宅近くの路上で車にはねられ、同病院に搬送され、そのまま入院した。頭を打っていたが、意識ははっきりしていた。容態が急変したのは翌年1月9日午前3時半ごろ、仁美さんは病院に駆けつけたがその数時間後に亡くなった。伊藤院長が出した死亡診断書には「肺塞栓」と書かれていた。「前日の朝に見舞いに行った時には元気に見えた母がどうして」と詰め寄る仁美さんに、伊藤院長は「寝ている状態が長かったせいだ」「風邪をひいていたのだろう」と説明した。

 仁美さんは昨年12月末、ほかの2遺族とともに同病院が慰謝料を払うことで合意、和解した。院長は遺族の名前を間違えたり、最善をつくしたと繰り返すなど本心で謝罪しているようには見えなかった。「看護師だった母がこんな形で命を落とし残念でならない」。仁美さんの無念は今も続いている。

【解説】求められる衛生管理徹底

 医療機関で多数の発症者を出した集団感染はこれまでにもあったが、手術ミスと異なり原因が明らかにならない場合が多く、刑事事件になったケースはまれだ。伊藤脳神経外科病院のケースは、感染源と感染ルートがいずれも病院内と立証できたことから、警視庁は院長らの立件に踏み切った。細菌への抵抗力が弱い入院患者を抱え、衛生管理の徹底が求められる医療機関に対し、警鐘を鳴らす形となった。

 警察庁によると、院内感染で立件されたのは、00年に愛知県の豊橋市民病院でセラチア菌などに患者5人が感染(うち死亡1人)した例だけで、看護師3人が業務上過失致死容疑などで書類送検された。使用済み注射器を使ったのが原因で、過失は明らかだった。

 一方、10人が感染(同5人)した99年の東京都墨田区の墨田中央病院や、15人が感染(同8人)した00年の大阪府堺市の耳原総合病院の例では、保健所などの調査でセラチア菌の院内感染と判断されたが、感染源と感染ルートが特定されず立件されていない。

 伊藤脳神経外科病院では、使用済みの注射器など廃棄物であふれたスペースで、感染源の薬液が調剤されていた。感染ルートの「ヘパリンロック」は、点滴を中断する際の一般的な処置だ。こうした日常的な医療行為を、十分な手洗い励行もしないまま看護師らにさせていたことが、7人もの死者を出す院内感染を引き起こした。

 東京都は02年3月〜今年3月、都内の全671病院に立ち入り検査を実施した。「薬液の適切な保管管理」や「院内感染予防対策のための教育・研修や手技の確認制度」は、半数以上の病院で不十分だった。院内感染は、目に見えない細菌が相手だ。だからこそ、対策には細心の注意が必要であることを、病院院関係者は肝に銘じるべきである。【草野和彦】(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030829-00001028-mai-soci