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2003年08月26日(火) 00時00分

朝鮮総連関連施設などへ銃撃・脅迫  『征伐隊』の正体は 東京新聞

 今回の万景峰号入港を前にした二十三日深夜、岡山市の朝銀に銃弾が撃ち込まれ、福岡市でも朝鮮総連などの施設で不審物が見つかった。昨年十一月から同様の事件は十件余りに及ぶ。いずれも脅迫状や電話で、「朝鮮征伐隊」などと名乗り、使われた弾丸も酷似するなど共通点も多い。警察当局は同一グループの犯行との見方を強めている。「征伐隊」の正体は−。

 「万景峰号の入港が予定されており、可能性としては、何か行動があるかもしれない」。警視庁公安関係者は、万景峰号の入港を前に、そんな言葉をもらしていた。警視庁が警戒する都内での事件こそなかったものの、福岡などの事件により、危ぐは現実となった。

 警察庁は今月八日、一連の事件を深刻にとらえ、警視庁と新潟、愛知、大阪、広島の各府県警の担当捜査員らを集め捜査会議を開いている。この席で警察庁幹部は「同一グループによる犯行の可能性も視野に入れる」ことの必要性を指示した。前出の警視庁公安関係者が「何か行動が…」と話したのも、同一犯による動きを読んでの言葉だ。

 警察当局が一連の事件を関連付ける根拠は、(1)凶器や手口の類似(2)脅迫や犯行声明の出し方の一致(3)「征伐隊」などとする団体名の共通性−などだ。

 一連の事件の発端となったのは昨年十一月、千代田区の社民党本部と朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)中央本部に「北朝鮮人は日本から出ていけ」などと書いた脅迫状と銃弾入りの封筒が届いた事件で、弾丸は38口径だった。今年一月の名古屋市の朝銀中部信用組合名古屋支店の銃撃や、七月末の総連新潟県本部の銃撃、広島県教組への銃撃、さらにオウム真理教の東京と大阪の道場への銃撃、いずれも使われた弾丸は同じ38口径とみられている。

 公安関係者は、「つぶれた弾を鑑定するため、線条痕が完全一致することはないが、社民党などが銃撃された事件と、名古屋の信組が銃撃された銃弾の線条痕は似ている」と話す。

 ■時限発火式の構造がソックリ

 一方、今月二十三日夜、福岡市博多区の総連県本部の近くで見つかった二つの不審物は、市販のステンレス製魔法瓶で、一つには中にガスボンベとリード線があった。新潟市内の総連系信組で見つかった時限発火式物と構造が酷似している。

 脅迫の仕方も、報道機関に団体名を名乗り犯行声明を出すとの類似点がある。

 今回、岡山と福岡の事件では、二つの新聞社に電話があり、「万景峰号が入港することへの抗議や」などという内容だ。それ以前の七件も、全国紙やブロック紙など計七社に電話をかけている。ほとんどの場合、警察が事件発生を知る前に通告するかたちだ。

 声明で、名乗る団体名は微妙に違うが、大半に「征伐隊」がついている。

 社民、総連中央本部事件では「朝鮮征伐隊」。今年一月、名古屋市の朝銀支店が銃撃された事件でも「朝鮮征伐隊」を名乗った。

 五月下旬と六月中旬に相次いで、東京と大阪のオウム真理教の道場が銃撃された事件では「赤報隊の生き残り国賊征伐隊」だ。

 六月下旬、広島市東区の県教組事務所が銃撃された事件では「建国義勇軍 国賊征伐隊」。七月末の総連新潟県本部が銃撃された事件とハナ信組で発火物がみつかった事件に限り「建国義勇軍」だけで「征伐隊」はなかったものの、今月二十三日の福岡、岡山の事件は「建国義勇軍」「朝鮮征伐隊」の両方だった。

 「征伐隊」は本当に同一グループなのだろうか。

 新右翼団体「一水会」の木村三浩代表は「私たちは、こういう行動をとらないが…」と断りながら、犯人像をこう推測する。

 「(犯行グループは)拉致問題に見られるような国家主権の侵害に敏感に反応し抗議する人たちだ。建国義勇軍は(その名前から)、戦後の軟弱政治を打破し、新国家建設が目的で、国賊征伐隊は、売国者を処罰する。政治思想は同じだ。いずれも同一犯で非常に行動的な複数の犯人が行っている可能性が高い。目的に応じて名前を使い分けているのだろう」

 ■「世間の関心を引きアピール」

 標的が朝鮮総連などの施設だけでなく、オウムや県教組の施設に及んでいることが目的の一貫性に欠けるとみられているが、木村代表は「オウム道場への銃撃や万景峰号来航直前の犯行など、時代状況に反応し、非合法ながら、アピールするタイミングを知っている人たち。世間の関心を引き付けることで政治的アピールが達成できると考えているのだろう」とみる。

 ただ、同一犯という見方には否定的な見方も多い。右翼団体に詳しい評論家の猪野健治氏は「義勇軍とか征伐隊とかの名はいくらでもつくれる。銃弾を使ったグループと不審物を仕掛けたグループとは手口から別物と見ることもできる」。

 都内の公安関係筋も「犯行の現場が広範囲に及んでいることから、拠点の限られた民族派右翼による単独の犯行ではないだろう。今回、万景峰号入港に抗議した右翼団体は、ある組織が全国の小さな組織に参加を呼び掛けたものだが、こういう全国に影響力を及ぼせる組織はテロ行為を束ねる団体ではない」と話す。

 続けて、この関係筋は「場当たり的な『類似犯』の可能性が高いのではないか。そこに、拳銃が使われていることから暴力団関係者が絡んでいるとも考えられる」と分析する。

 ■「差別的感情が復活してきて」

 そんな「場当たり的犯行」の見方に加え、猪野氏は拉致事件以降の日本国内のムードも続発させる要因として指摘する。「薄れてきていた在日朝鮮人への差別的感情が、拉致事件で復活してきてしまったという側面も見逃せない」

 何より気になるのは事件が続発しながら、犯人が捕まらないことだ。

 木村代表は「売名でなく、明らかに政治的目的で動いており、犯行声明などでも証拠を残さない巧妙さがある。警察自体の捜査力の低下もあって難しいのでは」と理由を挙げる。

 猪野氏も「戦前のテロは、血盟団事件のように自ら名乗り出るなど、捕まることを前提に犯行を遂行していた。今は証拠をできるだけ残さず潜伏するのが主流だ」と指摘する。


 その上で猪野氏は、こう警告する。「今の日本は期待された小泉政権が、何ら改革できず対米追従の無力外交にあるという失速の最中。政治、経済的に未来が見えずテロの頻発する時代だ。一連の事件の犯人らが、国民の注目する場所で大きなテロを起こそうとする可能性は否定できない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030826/mng_____tokuho__000.shtml