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2003年08月25日(月) 00時00分

“新顔”輸入魚 正体つかめ 学者の26年間の記録が復刻 「消費者の立場に立った食品表示のため、魚の全国共通の名称にあたる標準和名が必要なんです」と話す坂本一男館長=東京都中央区築地のおさかな普及センター資料館で 東京新聞

 スーパーで売っている白身魚の揚げ物。一体、魚の名前や原産地は?−なんて疑問を感じたことはありませんか。今や輸入が約四割を占める魚。日本で知られていない種類も多いが、築地市場に新たに登場した魚を集めた図鑑『新顔の魚』(まんぼう社)が先ごろ、出版された。魚類学者がこつこつと輸入魚に日本名を付け続けた記録。食品表示問題が注目を浴びる今、この図鑑に込められたメッセージとは。

 たれがとろりと光る、アナゴ。回転寿司で人気のネタだ。「実はこのアナゴは大抵、外国から輸入されたウミヘビ科の別の魚なんです」。築地市場にあるおさかな普及センター資料館の館長坂本一男さん(52)はこう話す。

 国産のマアナゴは、漁獲量が少ないため値段は高い。いきおい安価な食材が必要な回転寿司では、アナゴと味や形状が似たウミヘビ科マルアナゴや、ホラアナゴ科ホラアナゴがよく使われている。だが坂本さんは「ウミヘビには魚類とは虫類があり、マルアナゴは魚。しかも十分美味です」と本当のアナゴでなくてもおいしいものも多いと強調する。

 図鑑『新顔の魚』は、新たに食材に使われるようになった百九十種を、一九七〇年から九五年まで記録した。著者は、日本魚類学会会長を務め、農林省(現農林水産省)の水産研究所にいた故・阿部宗明(ときはる)理学博士。築地市場で新しい魚を見つけ出しては和名を付け、毎年リーフレット形式で発表した。

 坂本さんは魚類学者の後輩として阿部博士と親交があった。九六年に亡くなった博士は消費者に新顔の魚を紹介したいと願っていたが、結局、一部の関係者にしか伝わらなかった。坂本さんは阿部博士の夢をかなえようと、復刻を思い立った。

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 新しく入ってきた魚に日本名を付けた図鑑に、なぜ意味があるのか。日本の魚事情を激変させたのが、一九六〇年代に盛んになった遠洋漁業。遠く外国の漁場から、日本で未知の魚が流入するようになった。七二年に発行された業界用の図鑑を見ると、赤い魚はほとんど「アカウオ」と表記され、そのまま流通していた。同じ魚の呼び名が、水産会社によって違うのも当たり前だった。

 分類学上は関係がないのに高級魚類に似せた名称を付け、消費者に誤解させるケースも増えている。ナマズの一種を、タイと勘違いさせるような「シミズダイ」で売ったり、南アフリカで捕れるキングクリップを「アマダイ」の名称で販売したりする例もあった。

 阿部博士の思いを受け継いで坂本さんが提唱するのは、きちんとした「標準和名」を付け、食品表示に使おうという考え方だ。魚は別称が多いが、標準となる日本での呼び名を付け、消費者に食卓に載る魚の実態を知ってもらいたいという。

   ■

 農水省も昨秋から水産物の食品表示ガイドラインを新たに作り、今年四月から運用を開始。

 同省の担当者は「JAS法改正や一連の食品偽装事件をきっかけに消費者意識が向上したため」と説明する。エビ輸入や外国産の安価な魚を大量に求める経済原理で、輸入量は右肩上がりに増えている。「どんどん入ってくる新しい魚にどう対応するのかが今後の課題」(農水省消費・安全局)なのだ。

 だが、魚の呼び名に厳格な規準を設けるのは難しい。世界に約二万五千種という種類の豊富さに加え、呼び名が地域ごとに異なったり、ブリのように成長するに従って名が変わる魚も少なくない。

 素人では区別が難しく、加工品となると困難さが増す。ガイドラインも罰則はないため、魚類の食品表示の規制は実効性に乏しく課題が山積している。

 魚の命名については、審査機関があるわけではなく、学会誌などに発表して「常識的な判断で認知されれば、その名前になる」(坂本さん)のが実態だ。図鑑『新顔の魚』で阿部博士が命名した魚の中に、別の学者が違う名前を付けている例もある。「図鑑をたたき台に論議が深まれば」と坂本さんは期待している。

 アワビとして回転寿司やスーパーに並ぶ商品はロコガイやアワビモドキなど縁もゆかりもない種類のことが多い。コリコリした国産アワビと比べ、柔らかい食感。でも、慣れている味がおいしいと感じるのが人間。いずれ、こうした外国産が「アワビ」になる日が到来するのも近いかもしれない。

 文・出田阿生/写真・安江実

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