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2003年08月24日(日) 15時43分

乳がん、検診で見落とされ…千葉の女性「余命半年」朝日新聞

 乳がんが見つかる人は年3万人を超え、毎年増え続けている。一方、早く治療すれば、回復の割合が高いのも乳がんの特徴だ。その検診態勢は必ずしも十分ではない。千葉県に住む山口真理子さん(39)の場合——。

 県内の郊外の庭付き一戸建て。3人の子供たちに黒いラブラドル犬。そして優しい夫。山口さんは、欲しいものすべてを手に入れたはずだった。

 米国の大学を卒業後、外資系製薬会社に就職、留学中に知り合った夫(40)と結婚した。長女(14)、次女(11)に続き、94年に長男(8)が生まれた。直後、出産した産婦人科診療所で、気になっていた乳房のしこりについて尋ねた。

 医師は触診後「乳腺症でしょう」と答えた。

 5年後の99年夏。しこりが痛みだした。30歳以上を対象とした市の乳がん検診を受けた。出産した産婦人科が指定医療機関になっていた。

 「痛みがあるんです」

 医師は、触診だけでなく超音波(エコー)検査で調べてくれた。

 「乳がんは痛まない。脂肪の塊です」

 そのころパソコンインストラクターの仕事を始めた。育児による遅れを取り戻すかのように夢中で働いた。楽しかった。

 2年後の01年秋、しこりがはじける感覚が走った。5センチ以上はある。あの産婦人科医を訪ねた。

 エコー検査をする医師の顔が一瞬、曇った。そして専門病院での精密検査を勧めた。数日後、大病院でしこりの組織を調べた。結果が出たのはその日の午後。

 「悪性でした」

 それ以外の主治医の言葉は覚えていない。

 12月、摘出手術。7×5×2・5センチのがんだった。摘出したリンパ節すべてに転移していた。

 外国の論文を含め、資料を読みあさった。がんの成長には、長い時間がかかる。あの時なぜ、産婦人科医は見逃したのか。産婦人科は乳がんの専門科でないという。では、なぜ検診の指定機関になっているのか。

 転移を抑える治療が始まった。放射線治療や抗がん剤。髪は抜け落ち、体中がギシギシ痛む。一日中、寝ている。何もする気にならない。自殺ばかり考えた。

 昨夏、夫が歌舞伎に誘ってきた。かつらをかぶって、いやいや出かけた。銀座のカフェでお茶を飲み、相田みつを美術館に行った。そこで夫が掛け軸を買ってくれた。

 「しあわせはいつもじぶんのこころがきめる」

 無口な夫の、精いっぱいの励ましなのだろう。心がふっきれたような気がした。帰宅後、職場復帰を申し出るメールを上司に打った。

 今年6月、主治医のもとでエコー検査をした。その検査結果を夫と一緒に聞きに行った。肝臓に転移していた。冷静に「余命は?」と尋ねた。

 「どうしても聞きたいですか?」。主治医の顔はゆがんだ。そして「半年です」と。

 夫と一緒に昼食をとった。いつになく饒舌(じょうぜつ)な夫を見ていて、かわいそうで仕方がなかった。その日夕方、仕事を終えて車に乗ったとき、初めて涙がこみあげた。

 7月。乳腺症と診断した産婦人科医を訪ねた。

 「先生はエコーに自信があるのですか?」

 しばらくして医師は答えた。「得意ではないかもしれません」。研修も受けていない。だが、医師は続けた。「私は今後も続けます」

 コピーさせてくれたカルテには、一言だけ「乳腺症か!」との検診結果が記されていた。

 半年。どうやって生きようか。産婦人科医を訴えようか。だが、いやな思いをして半年を過ごしたくはない。

 厚生労働省や市役所を訪ね、検診制度見直しを訴えた。動いてくれるかはわからない。だが、仕事を続けながら訴え続けようと思う。家族には寂しい思いをさせるが。

 「残された時間は短いんで」。山口さんは、少しだけ涙ぐんだ。(08/24 15:42)

http://www.asahi.com/national/update/0824/016.html