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2003年08月20日(水) 00時00分

野菜の“逆価格破壊” 世田谷 高級店参入から1カ月 一個590円というトマト=目黒区のザ・ガーデン自由が丘店で 東京新聞

 カジュアル衣料の「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの食品部門子会社「エフアール・フーズ」(EF)が先月、青果ブランド「SKIP」の初の路面店を世田谷区内に開店してから、まもなく一カ月。異業種出身の新顔の登場に、近隣のスーパーや青果店の間で“野菜戦争”が起きているという。真相を確かめるべく、現地へとんだ。

 「いらっしゃいませ!」。ある日の夕方、店に入ると一斉に元気な声が飛んできた。旧「ユニクロ」の店舗を改装した「SKIP」世田谷上野毛店。約五十坪と青果店にしてはかなり広めで天井も高い。冷房の効いたおしゃれなカフェのような店内に、全国の契約農家が生産した野菜や米など約五十品目が並ぶ。トマトを手に取ると、すかさず店員が「お尻に放射状の線がたくさんあるのが甘くてお薦めですよ」。壁には生産過程の説明板があり、まるでショールームのよう。

 価格破壊の「ユニクロ」路線とは対照的に、価格は普通のスーパーマーケットより二−五割ほど高め。それでもさすがは高級住宅街、「高いけどおいしいから」「産地や生産過程が分かって安心できる」(近所の主婦)というお客のおかげで、高糖度トマト小玉三個六百三十円は完売、一リットル四百五十円のジャージー牛乳、十個三百円の卵も売れていく。

 「開店景気もあり滑り出しは好調」と同社マーケティンググループ。世田谷出店の理由は、通販の会員から「実際に手に取って選びたい」との声が強く、この地域に顧客が多かったからだとか。

 高級野菜をひっさげて突然現れたSKIPに対し、同店から一番近いスーパーマーケット「トップス上野毛店」の店長は意外にも「うちではそろわない物もあるので、お客様には選択肢が広がっていい」と歓迎。「やはりお客様は一つの店でお買い物を済ませたいのでしょうね、売り上げは変わりません」と自信を見せる。

 一方、区内の青果店主は「こだわりは分かるが、品数が常にそろうかどうか。いつまで続くか見ものだね。一度は見に行こうと思ってるけど」と、冷ややかながらも気になる様子。

 SKIPの宅配サービス対象である半径二キロ圏内には、高級スーパー「ザ・ガーデン自由が丘店」や「紀ノ国屋等々力店」もあるが、両店とも「あちらは野菜と果物だけ」と“畑”の違いを指摘。品質についても「同様の商品は従来から当店でも扱っており、当店のお客様にとって目新しさはない」(「ザ・ガーデン」を展開するシェルガーデン本部)、「当店では、安心・安全・高品質はわざわざ強調することではなく、昔から仕入れの大前提」(紀ノ国屋広報課)とプライドを見せる。

 さらにシェルガーデンは、SKIPの松屋銀座店に続く世田谷出店を「地方の富裕層向けに高級路線をアピールする戦略ではないか」と指摘。EFは先月末、関東限定だった会員制宅配地域を西日本にも拡大。二〇〇三年六月期の売上高が、当初目標の十二億円に対し六億円にとどまったという事情も合わせると鋭い指摘だが、同社は「そんな戦略はない。店舗ごとにきっちり利益を上げていく」と否定する。

 “戦争”にしてはどこも痛みを感じていないのが不思議だが、いずれにせよ、昨今のグルメ志向や食品の偽表示事件を背景に、価格よりおいしさや安全性を優先する消費者が増えたのは確か。

 先進的農業者集団が二〇〇〇年に創業したネットショップ「e−有機野菜」は、昨年の偽表示事件を機に会員が倍増し約一万人に。「らでぃっしゅぼーや」「オイシックス」「モス畑」など、安全性や鮮度を売りにした食品の宅配・通販業者も急成長している。「良い物のためにはお金を惜しまない方が増えたのでは」と「e−」広報。

 野望を抱く農家にもチャンスだ。農林水産省によると、新品種登録は二〇〇一、〇二年連続で千件を突破。商標出願も昨年は二千件を超し、十年前の三倍。

 「二十一世紀は野菜の時代」とは「エフアール・フーズ」柚木治社長の弁。ユニクロが火を付けたデフレ時代の価格破壊、今度は野菜の“逆価格破壊”に火が付くのだろうか。

 文・井上圭子/写真・嶋邦夫

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