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2003年08月12日(火) 00時00分

デフレは終わっている? エコノミストが衝撃論文 東京新聞

 日本経済はデフレである。これは共通認識になっている。ところが肝心の日銀が、デフレ判断について「どちらが本当なの」と聞き返したくなるような姿勢を続けている。これを探っているうち、今度はデフレ終息論ともいうべき指摘がエコノミストから飛び出した。真夏の“デフレ・ミステリー”をたどってみると。

 ■あいまいな日銀尻目に

 「政策委員会・金融政策決定会合において、金融政策判断の基礎となる経済及び金融の情勢に関する基本的見解として決定されたものである」

 この長々しい注釈がついているのは、日銀が毎月公表する金融経済月報の「基本的見解」という文章だ。日銀は政策委員会・金融政策決定会合について「最高意思決定機関だ」としている。基本的見解は、経済情勢判断をめぐる、日銀の“オフィシャル・コメント”なのだ。

 さて、この基本的見解を数年前までさかのぼって検索しても、不思議なことにデフレという文字がなかなか出てこない。日銀も「百パーセントそうとは言い切れないが、おそらくそうでしょう」と渋々ながら認める。日銀は少なくとも「基本的見解」では「日本はデフレだ」と認定していないようにもみえる。だが−。

 「緩やかな物価の下落が続くデフレーションの状況に陥っています」。これは日銀の福井俊彦総裁が七月二十三日、講演の中で行った発言だ。同総裁はもちろん政策委員会に出ている。

 総裁は明言しているのに、総裁自身が作成に取りまとめにかかわった「基本的見解」には「デフレ」は出てこない。どちらが本音なのか。日銀の広報担当者は「基本的見解に書かれている通りです」というだけで、違いについてはっきり説明しない。

 つまり日本のデフレは、中央銀行ですらはっきり定義できないあいまいな状況にあるのか。実はこの疑問への回答ともいえる“新見解”がこの夏、登場した。

 「デフレが終息しつつある根拠を示す」。国際金融情報センターの塚崎公義調査企画部長が経済誌の週刊エコノミストに掲載した論文だ。

 塚崎氏自身が説明する。

 「消費者物価指数が昨年十月からほぼ横ばいになっている。明らかにトレンドが変わっている。これは無視できないのでは」

 デフレの原因については、日本経済の需給ギャップを指摘する声が多い。供給能力に比べ「買いたい」「ほしい」という需要が依然として弱いとの見方だ。

 これについても塚崎氏は「例えば、大理石を敷き詰めた“バブルの塔”のようなビルやリゾートホテルに、借り手や客がつかないという状況を『需要がない』といえるのか」と疑問を投げかける。

 その上で「流れが変わったということは、何か大きな力が働いたということ。それは円高が止まったことや、賃金が上昇気配にあることを指すのかもしれない。今後、戦争が起きるとか、流れを再び変える大きな外的要因が起きない限り、デフレは終息しつつあるとみるのが自然だろう」とみる。

 確かに総務省が公表する消費者物価指数をみると、昨年十月から九八・〇付近が続いている。

 政府の景気判断を示す月例経済報告をまとめる内閣府の担当者も「表面上、物価下落は止まっているようにみえる」と認める。デフレはわれわれが気付かないうちに、“温帯低気圧”となって過ぎ去ったのか。

 ■『値下げ合戦は限界 落とせぬだけでは』

 そこで値下げ競争の最前線でもある外食産業の声を聞こう。

 牛丼チェーン店大手、吉野家の広報担当者は、これまで値下げをしてきた理由について「他店との価格競争というより、わが社の定点的な消費者調査で、値下げ要望が圧倒的に多かったから」と説明しながら現状を話す。

 「すでに、やれるところまでコストを削減し、業界ではもう、価格で勝負の時代は終わったといわれている。うちは『うまい、安い、早い』が売り物だが、将来は『うまい、早い、安い』の順にフレーズも変わっていくかも。ただ、今の価格は“超”適正価格なので、デフレがどうなろうが、価格を当面、上げも下げもしない」

 五十九円のハンバーガーを今年六月末まで売りだしていた日本マクドナルドは「一九九四年十二月、当時の藤田田社長が『価格破壊の大旗の下、奇襲作戦を繰り返す』と号令を下し、二百十円だったハンバーガーを百三十円まで劇的に下げたのが値下げの始まり。デフレ経済への全社挙げての戦略だった」と振り返る。

 しかし、そのハンバーガーも七月からは八十円に。

 「五十九円でも、二百十円当時のものと品質は変わらないのに『安かろう悪かろう』の不当な評価への懸念もあった。顧客アンケートでは消費者が求めるものが、価格第一から、おいしさ、新しさ、安全な品質、価格の順に変化した。低価格一本で勝負できる時代は終わった」

 外食産業も潮目の微妙な変化を感じ取っているようだ。さて専門家の目にはどう映るのか。

 第一生命経済研究所主任研究員の熊野英生氏はまず、デフレに明確な姿勢を示さない日本銀行について「結局、バブル経済時の金融引き締めが、今の景気悪化を招いたとの責任論を回避したいのが最大の理由では。デフレをもっと早く認めて金利を引き下げたら景気回復も早かったはずだ。総裁がデフレを認めた以上、その処方せんをはっきり示すのが筋でしょう」と厳しく批判する。

 ■「医療費などの負担増も要素」

 その上で塚崎氏の論文について「衝撃的だ」と驚く。ただデフレ終息論については「今年四月から、サラリーマンの医療費負担が二割から三割に上がり医療費が増額になっていることや、電力会社が原油の値上がりを理由に料金を引き上げ、光熱費がアップになっている要素も大きい。ただちにインフレへ転換とは言い難い」と分析した上で指摘する。

 「値下げ合戦してきた航空会社をみると、もはや限界だ。マンションの賃貸料もずっと下がってきたが、建設費が回収できるぎりぎりの線になっている。デフレが下げ止まってきたというより、(企業が価格を)これ以上落とせない状態になっているとの見方もできるのではないか」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030812/mng_____tokuho__000.shtml