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2003年08月08日(金) 00時00分

牛肉セーフガード発動1週間 企業努力の“結晶”かすめる国に怒り 東京新聞

 農水省が生鮮・冷蔵牛肉の緊急輸入制限(セーフガード)を発動し、関税を引き上げてから七日で一週間。デフレの中、消費者をつなぎ止めようと店頭価格を据え置いた大手スーパーの間には、生産コスト削減でやっと絞り出した利益をさらっていく政府への不満が渦巻いている。今のところ牛肉価格に大きな動きは出ていないが、一部スーパーは価格転嫁を決断しており、消費者への影響はこれから。牛肉輸出国の米国やオーストラリアも反発を強めている。二年前の牛海綿状脳症(BSE)騒動で「生産者偏重」が批判を浴びた同省は、まだ懲りていない。 (経済部・古川雅和)

 大手スーパーのジャスコなどを運営するイオンは、一九九三年に豪州・タスマニア島の牧場を直営化し、コスト削減を進めてきた。三年前に約六千頭だった牛の飼育頭数は約一万三千頭まで増加。飼料の大量購入や作業の効率化による人件費の削減など肥育コストを徹底して抑えた。販売量の拡大で、最近三年間はタスマニア産牛肉の価格を据え置き。コスト削減効果は算出していないが、同社の牛肉販売量の約二割を占める主力商品に成長している。

 だが、企業努力で生み出した利益はセーフガードの発動で国に持っていかれる。デフレが続く中での値上げは販売量の急落につながるため、関税引き上げ分の価格転嫁ができないためだ。

■体力勝負

 同社は「国が決めたことにコメントはできない」とするが、民間の懸命な努力を“搾取”する政府への怒りがにじむ。イトーヨーカ堂やダイエーも転嫁せず吸収するが、経営体力が弱い中小スーパーでは輸入牛肉の特売回数が減ることになりそうだ。

 一方、業務用食品スーパーのハナマサは、一日以降に仕入れた牛肉に関税分を上乗せする。ハナマサで牛肉を購入する中小の飲食店が値上げに踏み切れば、「農水省の悪代官ぶり」が飲食客の酒のさかなになるのは間違いない。

■逆効果

 今回のセーフガードについて、農水省は「関税率を上げるのではなく、WTO(世界貿易機関)協定で認められた税率に戻す措置」と、繰り返し強調してきた。牛肉関税の緊急措置は一九九四年の関税貿易一般協定(ガット)の多角的貿易交渉で認められており、「今回は関税暫定措置法に従い自動的に発動したものだ」という主張だ。

 関税の引き上げで増える国の税収は百数十億円程度。同省は、増収分を生産者向けに活用する計画で、亀井善之農相は「発動は中長期的に見て消費者の利益になる」と主張する。だが、価格上昇で消費者の牛肉離れが起きれば、逆効果だ。

 さらに、今回の発動は新たな貿易摩擦を引き起こしかねない。

 日本の牛肉消費量のうち、それぞれ30%以上を占める豪州と米国は、輸入牛肉の価格上昇による消費減少に強い懸念を示し、発動に猛反発した。

 スーパーや飲食店の大半が価格を据え置いた場合には、消費量は維持されるかもしれない。しかし、大手スーパーの場合、引き上げ分を、生産地の人件費削減や飼料など関連資材の仕入れ値引き下げという形で、現地の生産者や労働者にしわ寄せせざるを得ない。関係国の経済にマイナスの影響を及ぼすため、反発と摩擦は避けられない。

■交渉下手

 農業分野の貿易問題は、九月にメキシコで閣僚会議が開かれるWTOの新多角的通商交渉(新ラウンド)で最大の焦点だ。今回、米国などの反発に押されて発動を見送れば甘く見られ、「今後の交渉でさらなる譲歩を迫られる」という農水省内の声も、強硬な姿勢の背景になっている。

 東京大学の本間正義教授(農業経済学)は「恩を売っておくのも一つの手ということに気が付いてもいいのではないか」と、国際舞台でうまく立ち回れない農水省にあきれながら、今回の発動について「獲得した権利を生産者のために行使する体質が現れただけ」と、同省を厳しく批判した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20030808/mng_____kakushin000.shtml