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2003年08月06日(水) 00時00分

被害者保護か通信の秘密か ヤミ金脅迫電報 東京新聞

 ヤミ金融業者による被害は、今年上半期で既に昨年を超えた。過酷な取り立ての中で、被害者を追い詰める手段の一つが「脅迫電報」だ。関西のヤミ金被害者らが、脅迫電報が配達されなければ被害は拡大しなかったと、NTT西日本を相手取り提訴した。被害者保護が求められる前には、守られるべき「通信の秘密」という壁が立ちはだかる。

 広島県の会社員女性(49)宅に、菊をあしらった黒い漆塗りの台紙にうやうやしく包まれた「お悔やみ電報」が届いたのは今年三月十四日だった。電報は追悼文ではなく、全日本債権協会を名乗る見知らぬ業者からの借金返済催促だった。

 債権を買い取ったとして返済を迫り「お身内、ご友人、ご近所の方々、これからなにかとご迷惑をおかけする事になるかと思います」と、家族らへの危害をほのめかす。さらに「近いうちこの電報の意味をご理解して頂けると思います」と締めくくられていた。

■「お悔やみ」装い「最終通告です」

 二カ月後に二通目の「お悔やみ電報」が来た。「最終通告です。(中略)当、協会の回収はかなり手荒なので、相当覚悟してください!!」

 「丁寧な言葉遣いだけに、余計にぞっとした。お悔やみ電報の“意味”と言ったら、死人が出るぞという脅しでしょう」と女性は恐怖の体験を振り返る。

 女性が「ヤミ金」から金を借りたのは昨春だった。

 「軽い気持ちだった。『二万円からでも融資しますよ』という電話があって。感じのいい男性の声で、説明も丁寧だった」

 四年前に夫と死別し、小、中学生の子供三人を抱えて働く女性には、わずかな金でもありがたかった。

 「でも二万円の融資に、翌週から一万八千円の利息を要求された。元金を返そうと思ったけど、手数料などを含めて三万五千円になると言うんです」

 困っているのを見越したように、融資を申し出る電話が次々ときた。「最終的には全部で十四、五社から借りていた。利息も月に六十万円くらい払わないけんのですよ。もう必死で。二、三カ月でどうにもやれんようになって。心中しようかとも思い詰めた」

 返済のため、家族や友人らにうそをついて借金した。昨年七月、友人への告白で初めて、自分のケースが典型的な「ヤミ金」被害だと知った。被害者団体に連絡を取り、対策を聞いた。

 それまで振り込んでいた返済を止めた途端、脅迫めいた電話が家庭を襲った。

 「貸す際の甘い声とは違う暴言ばかり。子供が電話に出ないように、仕事に行く日中は電話線を抜いていた。実家にも電話された」

 こうした脅しの最後に来たのが電報だった。女性は「手口を知らなかったら、怖くて言われるまま払っていた。子供が電報を受け取ったらと思ったら、不安でたまらなかった」と話す。

 他の被害者には「金返せ詐欺師」とびっしりと百回も繰り返した電報や、「あなたの指を10本、家族の方々の指を40本送っていただければ、借金は帳消しにします」とする文面も送りつけられた。家族が傷つけられるという恐怖に被害者たちはおびえた。

 この女性を含め電報を送りつけられた被害者十八人は先月二十四日、これらの電報を配達したNTT西日本を相手取り慰謝料を求める訴訟を大阪地裁に起こした。内容を知りながら配達をやめなかった同社の責任を問う構えだ。

 代理人で全国クレジット・サラ金問題対策協議会事務局長の木村達也弁護士は「電報は早朝から深夜まで時間を選ばず配達されるため、それが怖くて家に帰れず、友人の家を泊まり歩いていた人もいるほどだ。お悔やみ電報は身内の不幸を連想させ不安感を覚える。わざわざ一番高い五千円の漆塗りの台紙を使った電報で督促するのは、その心理につけ込むもので精神的苦痛は計り知れない」と窮状を訴える。

■慶弔電報などに絞り規制求める

 深刻な被害が拡大する一方で、壁がある。「通信の秘密」は憲法で保障されており、その保護は電気通信事業法で通信事業者に義務付けられている。NTT西日本広報室もそれを理由に「適切かどうかを判断し電報の受け付けを拒むことはできない」と話す。

 提訴の理由について木村弁護士は「電報内容に関与しないことは、ヤミ金業者の恐喝を助けるようなものだ。そもそも脅迫電報を黙認して配達することは、公序良俗に反するのではないか。通信の秘密にしても犯罪捜査に警察が電話などを盗聴できるよう通信傍受法を作り例外措置として認めているので、この件でも電気通信事業法改正論議が起きるよう期待したい」と被害の深刻さに比重を置く。

 ただ「通信の秘密」に配慮して「慶弔文は内容が形がい化しており、その保護の重みが軽くなっている」と、今回の訴訟では慶弔電報などに対象を限り、配達規制を求めていく。

 NTTも四月から対策に乗り出した。NTT東西日本は、すべての電報受け取りを拒否できるサービスを始めた。料金未払いが多発する携帯電話から電報する場合は月に六通目以降はクレジット払いに限定した。東日本では一日平均一万一千件あった電報が、これで十分の一まで激減した。

 守られるべき「通信の秘密」と被害者保護の両立をどう考えるのか。インターネットプライバシー研究所の高木寛代表は「被害者の気持ちは分かるが」と前置きした上で、「通信の事業者であるNTTの責任にすると、事業者側が中身を判断しないと、(利用者側が)送れないことになる。利用者側からみれば、それはうれしくないことだ」と民間事業者が通信内容をチェックする懸念を表明する。

 奥平康弘・東大名誉教授(憲法学)も「通信の秘密がいったん侵されると、公序良俗を理由に、あらゆる場面でチェックがかかる可能性がある」と同様の見方だ。ただ今回のケースは「明らかに社会的な問題に使われている傾向があり、それが繰り返し続く場合には、通信の秘密という一般論で押してよいのかとも思う。電報を打つ人は、手の内を見せた上で、ここに送ってほしいとしているわけで、受け付ける側は内容のチェックをかけるチャンスはある」と指摘する。

 一方、「提訴はもっともなこと」と話すのは社団法人・自由人権協会理事の三宅弘弁護士だ。

 「通信の秘密の前段の(NTTの)契約の問題だ。脅迫文を弔電とするのは、本来の趣旨に反し、公序良俗に反する。明らかにおかしい時は受け付ける契約の段階で判断し、チェックする必要はあると思う」

■「NTTが基準作って認知を」

 NTTが判断するには基準が必要となるが、三宅弁護士は「通信の自由という憲法上の権利を基準化していくのも大切な部分。国に頼るのではなく、NTTで基準を作り、『こうやります』と社会的な合意を得るべきだ」と指摘した。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030806/mng_____tokuho__000.shtml