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2003年08月04日(月) 00時00分

少年犯罪 情報公開の重要性 同じ被害者出ぬよう教訓に 東京新聞

 なぜ、どのように少年は犯罪に至ったのか。少年事件が起きるたびに、この核心情報がうやむやにされていく。専門家はおろか被害者にすら、知らされないケースもある。長崎市で起きた男児殺害事件のショックが冷めやらぬ中、“知らされない”苦悩と闘った少年犯罪被害者の声を聞き、情報公開の重要性を考えた。 (社会部・佐藤直子)

 「なぜ、わが子が殺されてしまったのか。被害者の遺族はつらくてもそれを知ることから始まる。死んだ子の極限のつらさを全身全霊で受け止めるために、時間をかけても必死になって事実を求めるのです。それなのに私たち遺族は加害者が少年だからと事実から遠ざけられ、ごまかされてきた」

 ■全容知るのに10年近い歳月

 広島市郊外で工務店を営む小田俊雄さん(56)、清美さん(54)夫妻は、わが子に何が起きたのかを知るため十年近い歳月を費やした。

 一九八五年七月二十日、小学四年生だった長男の陽一君(9つ)は終業式から帰宅後、同級生と川へ釣りに。顔見知りの中学二年男子(13)が来て陽一君に「川の中をのぞけ」と命令した。仕方なくのぞき込むと、中学生が突き落とした。泳げない陽一君は水の中へ沈んでいった。

 地元警察は陽一君が「自分で川に飛び込んでおぼれた」と発表した。小田夫妻は現場にいた同級生から「陽一君が突き落とされた」との情報を得ていた。

 小田夫妻が交互に苦悩の軌跡を語る。

 「警察は『終わった。事故だ』の一点張りだった。再三の抗議にも取り合ってくれなかった。でも三週間後、警察は突如、態度を変えた。『中学生に過失があった』と児童相談所へ通告したんです」

 ■警察は『守秘義務がある』

 「過失とは何かと警察に説明を求めたが『守秘義務がある。言えない』と拒まれた。加害者の少年に直接会って事実を確かめようともした。でも学校にも地域にも事故として知れ渡った後のこと。加害者少年自身も『話すことはない』と黙り込んだ。『自宅に来て』と言うので訪ねてみると、今度は親から『嫌がらせだ』と警察に通報される始末だった」

 少年は家裁で審判を受けず、児童相談所での通所指導で終わった。新学期には普通に登校してきた。小田さんの二人の娘は、少年と同じ中学校に通っていた。だが「だれも事件には触れたがらず、同情の言葉はなかった」という。

 ■事実を追うほど非難され

 「加害者は陽一を川に突き落として笑っていたというのに、事実を突き止めようとすればするほど、周囲から逆に非難された。『相手は子ども。遊びだったんじゃから許してやれや』なんて。事件が何事もなかったかのように、封印されようとするのを感じた。だから事件から一年後、真相を問うため民事裁判を起こした」

 「少年は法廷でも言い逃れるばかりで事実を認めなかった。だけど、現場にいた同級生たちが証言してくれ、七年後、やっと加害事実が認定された」

 一方、地元署や県を相手取った国家賠償訴訟は最高裁まで争ったが、結局棄却された。

 ■孤立感深め引っ越しも

 「警察は事実認定のために重要な調書を提出してくれなかった。被害者が権利を追求できる唯一の手段である裁判さえも苦難の連続だった。民事で勝った後も、加害者側からの謝罪はなかった」

 長い闘いで孤立感を深めた夫妻は住み慣れた町を引っ越した。「事件」から十八年後の夏、長崎市で十二歳の少年が四歳男児の命を奪った。

 小田さんは「親が死んでいったわが子にしてやれる唯一のことは、二度と同じような被害者を出さないこと。社会は事実を伝える情報がなければ教訓にできない。いくら加害者が少年であっても、犯罪事実はできる限り公開すべきだ。事実をねじ曲げたり、暗闇に葬ることは死者への人権侵害だ」と訴える。

 ■専門家の見方

 神戸連続児童殺傷事件で弁護団長を務めた野口善国氏も、適切な情報公開の必要を重要視する。

 「被害者本人や遺族には少年の特定も含め事件の詳細を開示していい。どうして被害に遭ったのか知りたいのは当然の思いだ。一方、メディアへの情報開示は、事件を起こした少年が抱える問題や原因を科学的に検証して非行予防の教訓にすると同時に、少年が社会復帰したとき地域の不安を取り除くという意味がある。ただ基準を作り被害者とは違う形で公表すべきだ」

 野口氏は現状の問題点も指摘する。

 「今は各家庭裁判所や地検が少年の処分状況、非行事実の認定内容、処分などについてバラバラに発表している。法務省が所管する研究所などで、一元管理して公表する制度が必要だ。少年審判では精神科医や家裁の調査官、鑑別所の職員などがさまざまなテストをする。そこから導かれた問題点、その処遇に決めた理由、現在どこまで改善されたかなどの情報が公開されればと思う。だが仮退院の時期や場所などは混乱を招くだけなので、控えたほうがいい」

 常磐大学の諸沢英道教授(被害者学)は「犯罪者情報は被害者に公開すべきだという、被害者の知る権利は国連でも確認されている。国は国民の安全を守らなければならない義務があり、国民は公開された犯罪者情報から身を守ることができるという視点だ。長崎事件では加害少年は十二歳だから名前を公表することは問題だが、精神鑑定結果は広く発表すべきだと思う」と語る。

 さらに「被害者にとって情報公開は不可欠だ。犯罪被害者の被害は過去を知り、立ち止まって考え、癒やされるというプロセスで回復していくが、少年の生い立ちから知的発達、家庭問題まですべてを知って初めてこのスタートラインに立てるのだから」とも。

 少年の非行問題などに精通する東海女子大学の長谷川博一教授(臨床心理学)は「少年審判は原則公開ではないが、裁判官の裁量でできると思う。審判の過程で加害者と被害者、遺族を接触させている裁判官もいる。その時はできる限りの情報を示してほしい。神戸連続児童殺傷事件の加害者がこの秋にも仮退院するというが、遺族は本当に更生したかどうか情報を求めている。確実な更生状況や退院情報については伝えるべきだ」とみる。

 その上で長谷川教授は、長崎市の事件を念頭に情報公開の在り方について提言する。

 「長崎事件では少年の心の闇を解く意味からも、弁護士だけでなく臨床心理士などの専門家も付添人にすべきだ。心の闇とコンタクトできる専門家が少年に寄り添いながらかかわり、その付添人の立場から意見や分析結果を公表できる制度があると良いだろう。社会が、メディアから流される断片的な情報から、勝手に解釈を膨らませてしまうのは危険だ。事件解明にかかわった複数の専門家が、積極的に伝えていくようにしなければならない」 (市川千晴)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030804/mng_____tokuho__002.shtml