悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2003年07月19日(土) 00時00分

アンバランスな12歳 心は“少女” 体は“大人”  東京新聞

 「いいバイトがあるんだ」。自殺した男性(29)の言葉に誘われ監禁されたのは、小学六年生の少女たちだった。だが小学生といっても少女たちの成長は早い。心は“子ども”でも体は“大人”に近い。悪質な風俗業者の被害に最も遭いやすい時期でもある。アンバランスな“プチエンジェル”たちを社会はどう守るのか。

■低年齢化する性絡みの事件

 少女四人が監禁された東京・赤坂から近い元麻布にある赤枝六本木診療所は、性感染症にかかった少女らの“駆け込み寺”だ。赤枝恒雄医師(59)は連日、少女たちの診療にあたる一方、出張相談も行う。最前線の実態を聞こう。

 赤枝氏は「一、二年前から援助交際の主役は、小学生に移りつつある」と言い切る。

 「二年前までは、中学生が援助交際の中心だった。『高校生はバイトでお金を稼げるけど、中学生には援助交際しかない』という理由だ。援助交際する小学生の言い分を聞くと、一、二歳しか年の違わないお姉さんが中学に入った途端、『きれいに着飾って輝いて見えた』という。『中学生と一緒に遊びに行くと、自分がみすぼらしく見えて恥ずかしくなる。着飾るためにお金が欲しかった』と動機を語っている」

 年上の“お姉さん”にあこがれる小学生の成長の度合いは、一段と早まっているのか。

 赤枝氏は「発育のいい子は、小学五年になると生理が始まる。妊娠出産も可能な状態で、体は立派な女といえる」と話しながら続ける。「最近はエステに通う小学生も増えている。体格も良くなっているし、外見では小・中・高校生の区別がしにくくなっていることも、性対象の低年齢化に拍車をかけている」とみる。

 「エッチ系はなしだよ」

 「一緒に食事すればお金をあげるよ」

 監禁された少女の一人が持っていたチラシに書かれてあるという誘い文句だ。

■泣き寝入り多く「氷山の一角だ」

 「電話ボックスに張ってあるチラシで知ったという子が多い。性衝動ではなく興味本位でテレクラなどに電話をかける。『一緒にお茶を飲むだけで〇万円』という話を聞いて、自分が“商品”になることを知っていく。少女は、実際に大人と会って話すと親近感が芽生え『いいおじさんに見えた』と話す例が多い。大人が子どもをだますことは簡単で、“合意の行為”になってしまう」

 興味本位で誘いに乗り、事件に巻き込まれる。少女たちが性犯罪被害に遭う典型的なパターンだ。

 赤枝氏は「今回の事件はたまたま発覚した“氷山の一角”だ」と指摘した上で、過去の事例を明かす。

 「ある中学二年女子は、渋谷のブルセラショップで個室に入り下着を売った。その店の個室にはマジックミラーがあり、外部からは女の子の容姿が見える仕組みになっている。好みの女の子の下着や排せつ物を指定して買い取る。その中学生の顔を覚えた男が、店の前で待ち伏せし、つけ回してレイプした。『パンツなんか売って学校に言うぞ』と脅され、泣き寝入りするケースがほとんどだ」

 「ある小学四年の女の子は、男に『荷物運ぶのを手伝ってくれないかな』と声をかけられ、ビル内の物陰でレイプされた。診察したが、うなだれる両親の横で、被害者の少女は、そんな重大なことをされたとは思わないのかあけっらかんとしている。別の中学二年女子は『五万で自分が売れるということは、自分にそれだけ価値がある』と喜んでいた」

■対応が事件に追いつかぬ行政

 “最前線”では、すでに親の想像をはるかに超えた状況にあるようだ。行政はどう対応するのか。

 文部科学省の担当者は「今は状況確認している。長崎と沖縄であった事件については、二十二日に予定している全国教育長会で、問題行動についての一斉点検などをお願いするが…」と相次ぐ事件に対応が追いつかない様子だ。東京都教育委員会も「各区市の校長会で、生活指導を担当する校長を緊急で集め話し合いを始めた段階だ」という。

 「性教育を創る」「性の授業」などの共著がある千葉県の小学校教諭、松本徳重氏が現代の少女たちの実像を説明する。

■ガラスの友達関係

 「少女たちは、群れているようでも、『ガラスの関係』だ。お互いを傷つけたり、壊したりしないように気を配る。相手を思いやるでもなく、心を割ってぶつかり合うこともない希薄な関係だ」

 さらに「希薄な関係の中では、グループを組んでいても、一人の興味に、みんなが引きずられてしまう傾向がある。特に性に関する興味が強いころで、そちらに関心を持つ子がいると、みんなもそちらに向く。例えば一人が『渋谷へ行こう』と言うと、『いやだ』と誰も否定できない。関係は壊したくないので、善悪の判断をせずに一緒について行く」と話す。

■家庭が育てる善悪の判断力

 同時に松本氏は「子どもが自分で善悪の判断できるかどうかは、家庭で子どもと、どんな話をどれくらい話しているかが関係してくる。子どもに家事を分担させる時、『これをやりなさい』とだけ言って、ただやらせて済ませているのか、親子で何ができるか話し合って、決めるのとでは違う。テレビを見ている時でも、お互い黙って見ているのと、親が自分の意見を言ってみたり、子どもの感想を聞きながら見ている家庭の方がいい」と家庭の役割を重要視する。

 「性と健康を考える女性専門家の会」副会長で、「ふれあい横浜ホスピタル」産婦人科の早乙女智子医師は「十二歳のころの女の子は、体の発達に比べ、心が追いついて成長しきれていない非常にアンバランスな時期だ。アンバランスの結果、『こういうことになるとは思わなかった』という事態になることが多い」という。

■「禁止だけでは隠れてやる」

 早乙女氏は「性については、成長の一つのステップとして親子で話し合って『うちではここまでOK』と決める。管理し、押さえつけるだけだと、親に隠れてやる。携帯電話を持つことについても、渋谷に遊びにいくことについても、ただ与えたり、禁止するだけでなく親子で話し合う。会話があって、つながりを保ち続けられれば大丈夫だ」と親子間の対話強化を提案する。

 一方、前出の赤枝氏は「今回の事件の被害者の一人が『私も悪かった』と語っているのが悲しい」と言いながら、過酷な体験に衝撃を受けている少女たちに、言葉を投げかけた。

 「『君は悪くない。きちんと正しい情報を教えなかった親や先生、少女を性商品として使う社会が悪い』と言ってやりたい」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030719/mng_____tokuho__000.shtml