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2003年04月25日(金) 00時00分

オウム・松本被告 死刑求刑まで7年読売新聞

審理短縮 一筋縄では…

 東京地裁で24日、死刑が求刑されたオウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫被告(48)の公判は、ここまでに7年の歳月を要した。司法制度改革では、すべての一審を2年以内に終わらせる「裁判迅速化」の実現と、国民が参加する「裁判員制度」の導入が予定されており、改革後は、今回のような長期審理は許されなくなる。「松本公判」で浮かび上がった刑事裁判改革の課題を探った。(社会部・大沢陽一郎、石原明洋)

長期裁判の代表例

 初公判から論告まで254回を数えた松本被告の公判は、一審判決までに322回、13年余りの歳月を重ねたリクルート事件の江副浩正・同社元会長(有罪確定)の公判と並び、長期裁判の代表例と位置づけられている。ただ、異なる点は、裁判員制度がスタートした際、リクルート事件は対象外となるのに対し、多数の人命を奪ったオウム事件は、裁判員が裁く対象となる可能性が極めて高いということだ。

 裁判員制度に関する政府試案では、対象事件として、〈1〉内乱罪を除く法定合議事件〈2〉死刑または無期懲役の事件〈3〉法定合議事件のうち故意に被害者を死亡させた事件——を挙げている。リ事件のような汚職事件は含まれないが、松本被告が問われた13事件の大半はこのどれにも該当する。

 一般市民を長期間拘束することはできないため、裁判員による裁判の審理期間は長くても1か月前後が限度。希有(けう)なケースとはいえ、松本公判のように訴因が10を超す大型事件の審理をその期間内で済ませることは、従来の裁判手法を採る限り、まず不可能といえる。

 では、どうすれば、松本被告を裁判員制度で裁くことが出来るのか——。複数の法曹関係者は「訴因、つまり起訴する事件を絞るか、公判を事件ごとに分離するしかない」と指摘する。

起訴絞り込みか 事件ごと分離か

当初は17事件

 東京地検が当初、起訴した事件数は17。対象となる死者数は27人、負傷者は計約3900人にのぼった。しかし、その後、迅速審理のため、負傷者を18人に絞る訴因変更を行い、覚せい剤など薬物密造関連4事件の起訴も取り下げた。いずれも検察として異例の決断だったが、「裁判所内では早くから、起訴された事件があまりに多すぎた、という意見もあった」と東京地裁元幹部は明かす。松本被告の弁護団も「17事件も起訴しておいて、早く審理を進めろと言われても無理」と批判した。

 これに対し、東京地検元幹部は「捜査の過程で、松本被告はほかにも様々な犯罪に関与した可能性も浮上していた。17事件の起訴でも足りないくらいだった」と振り返る。

 陪審制度がある米国のケースを見ると、1995年に起きたオクラホマの連邦政府ビル爆破事件は、死者168人を数えたが、起訴事実は、法律で特に罪が重くなる連邦職員8人の殺害などに限定された。

 だが、日本では、「被害者感情を考えると、死者の数を絞ったり、死者の出た事件の起訴自体を断念したりすることが、受け入れられにくい」(日弁連関係者)という側面がある。

 一方、一被告の公判を事件ごとに分離するとなると、量刑をどのように決めるのかという問題が生じてくる。あるベテラン裁判官は「分離された各裁判で、それぞれの事件について有罪かどうかをまず判断し、最後にまとめて量刑を決めるなど、現在の仕組みを大幅に変えることが必要になるのでは」と指摘している。

全容解明は社会的要請

どこまで立証?

 教団はなぜ、凶行を重ねたのか——。オウム事件の全体像を解明してほしいという期待が、松本公判に対する社会的要請だったことは間違いない。

 検察側冒頭陳述は、第2回公判(1996年4月)で示された地下鉄サリンなど3事件分だけでも計約4万字。被告の生い立ちや、教義から殺人行為が容認されていく過程などを詳細に描き出した。犯罪事実だけでなく、動機や背景事情などを含め物語仕立てで事件を再現する手法は、「精密司法」とも呼ばれ、現在、刑事裁判の主流となっている。ただ、この方法だと、弁護側に徹底抗戦されると、審理の長期化を招きやすい。

 これに対し、裁判員制度では、事前に争点を極力絞り、公判では争点に沿ったわかりやすい尋問が求められる。このため、最高裁は昨年12月、「迅速な裁判を実現するためには、これまでの過度な精密司法を見直す必要がある」とする見解を表明した。

 「松本被告公判の争点は、突き詰めれば、実行犯との共謀の有無しかなかった」と東京地検元幹部は言う。だが、こうした重大事件の立証で、動機や背景事情の解明を最小限度にとどめることについては、「被害者や国民の納得が得られるかどうか未知数」(最高裁幹部)との声も根強い。

「裁判員制度」 司法改革の目玉だが

 一般の国民がプロの裁判官とともに刑事裁判の審理に加わる「裁判員制度」導入は、司法制度改革の“目玉”として、一昨年6月、政府の司法制度改革審議会がまとめた最終意見書に盛り込まれた。

 先月、具体的な制度設計に向けた政府試案が示され、現在、法曹関係者や有識者による「裁判員・刑事検討会」が、この試案をたたき台に議論を続けている。夏までに主要論点の議論を終え、秋には政府による関連法案作りが始まる予定だ。

 一方、今国会には、一審判決の2年以内終了を目指す「裁判迅速化法案」が提出されている。ただ、この法案は「努力目標」的色彩が強い。

法定合議事件 3人の裁判官で構成する「合議体」での審理が義務づけられている事件。最も軽い法定刑が「1年以上の懲役または禁固」とされる犯罪が対象になる。殺人や傷害致死事件などがこれに該当するが、加重収賄を除くすべての贈収賄や詐欺事件は含まれない。

http://www.yomiuri.co.jp/features/kyouso/200304/ky20030425_02.htm