ASHIKAさんからのお便り

もう7〜8年以上前の話ですが、高校を卒業して以来連絡の無かった後輩が、1年ぶりくらいで電話をよこしてきました。彼女は「先輩、一緒に食事でもしましょうよ。よかったら家に泊まってください!面白い所あるんで案内しますから」と楽しそうに言いました。私達は長野にいたんですが、私は親が千葉に家を買ったので千葉に引越し、後輩は東京の会社に就職したため上京し一人暮しをしていました。

そのころ彼女は「同人」というものが好きで(コミックマーケットとかいうヤツですね)、キャプテン翼のパロディマンガなんかを買いに行ったりしていたので、「コミケには行かないよ〜」と断ったのですが「そんなんじゃないですよ〜」と言うし、とにかく久し振りだったので会いに行きました。

指定された駅で下りると、満面の笑顔の後輩。「こっちですよ〜」「どこで何するんだよ〜、妙な所じゃないだろうねえ、おい」「大丈夫ですってば〜信用してくださいよ〜」などなど、後で考えればくびり殺したくなるような会話を交わしつつ、とあるマンションの一室に連れて来られました。普通の、白いマンション、白い部屋。同じ階の他の部屋には、普通に人が住んでいる印象でした。しかし、後輩に促されて入室してみると…あまりにも異様な世界が展開されていたのです。

パッと見、フツーのリーマンやOLみたいなのが部屋にたくさんいて、なごやかに談笑しています。壁にはなぜか森高千里のポスターが(なんでかハッキリ覚えている・笑)。そして、部屋の中央にラジカセが置いてあり、デカイ音量で森高の歌が流れていて、それにあわせてリーマン&OLが幾人か踊っていました。

「…………」

私が黙るのも解ろうってもんですよね?みな、一様ににこやかなんですよ。それがかえってブキミでした。私は入ってはいけない所に足を踏み入れた事を自覚しましたが、背後をにこやかな後輩ががっちりガードしてくれているので逃げられません。すると、そこの誰よりもにこやかでお上品な感じの女性と、いかにも馴れ馴れしい「僕って誰からも明るくて楽しい人ねって言われるんだ〜」というのが自慢らしい男が話しかけてきました。

「こんばんは。なにか聞いていらしたの?」
「?いえ、何も…」

当時の私は割とふくよか(デブ)だったのですが、その馴れ馴れしい男は「結構体格いいですね〜」とムカつくセリフをくれました。それがそいつの「場を盛り上げるトーク」なんだろうと思います。初めて会った人間にものの3分で見抜かれるなんて、何て薄っぺらい男だと思いつつも軽く黙殺、そこから恐ろしい会合の始まり。

私同様、何も解らず連れてこられた可愛そうなヒナ鳥達が7〜8人いて、私達はでかい教壇の一番前に座らせられました。そして、その背後には「会員」とおぼしき人々30人。何かの説明が始まりました。それは、土日などの休みを利用して、車のオイルのなんたらを売る、という話でした。それは会員制で、Mという文字が先頭の英語の名前なんですけど忘れました。で、会員で時々ピクニックに行ったりパーティーを開いたりするそうです。引っ込み思案だった人も、みんなで一緒に行動しているうちに明るい性格に!土日利用でノルマもないのでお金が儲かってしょうがない!ここにいるのは気さくな仲間達さ!………

そんな、どーしようもなくくだらない話でした。商品の説明をしている時も、必要以上に明るく、笑わせるジョークを交えたりします(笑えないけど)。私達は明るくて仲間が大事で後暗い事なんか何もないよ!と言いたいようでした。そんなミエミエのばか発言がおかしくて、彼らの呈する本来の意味とは別の所で笑っていたのですが…壇上で説明する人が、何か「決め」のセリフを言うと、後にひかえし「明るい仲間達」がいっせいに同じ受け答えをするのです。「よおしその意気だ!」とか「う〜ん、なるほど」とか、同じタイミングで笑ったりとか。最初は「おいおい」と笑っていたのが、だんだん恐ろしく感ずるようになったのです。

「一体これは何なの…宗教か、新手の」

そして悪夢の説明会は終わりました。私は一刻も早く帰ろうと思いましたが、今は地球一憎い後輩が「先輩待ってくださいよ〜。少し話しましょうよ」と言いたれやがりました。私は断るつもりでしたが、最初に会ったあのお上品女(どうやら主力メンバーの一人らしい)が私担当になったらしく、わざわざイスを持ってきて私と向かい合って座りました。

女「今の話どうでしたか?」
私「ああ、大変素晴らしいお話でしたねえ」
女「まあ。どうですか?一緒に私達と働いたり楽しく過ごしたりしませんか?素敵な仲間がたくさんいますよ」
私「(たのしく過ごすってのは室内でスーツ着たリーマンと森高ダンスを踊る事かよ)結構です」

私があまりにもキッパリそう言い切ったので、女は少しひるんだようでした。そして、前にも増して情熱的に話しかけてきました。しかし、私は「全てにおいていい加減に答える」という快挙を成し遂げました。こういう場合、真剣に答えてはだめだ、と本能で感じ取ったのです。だって、ここにいるやつらはみんな「本気だ」という事が解ったのですから…ここで真剣に返してしまっては相手のツボ。私はさんざんちゃかしまくりました。拝むふりして「ああ、まったく素晴らしいお話で、ありがたい事です」とか「ああ、明るい仲間っていいですよね〜。私はいらないけど」とか、「先輩、少しは真面目に聞いてくださいよ」と後輩が顔色をなくすくらいにふざけてやりました。(ちょっと面白がるようになってたのは事実です)

するとその女は、「一人では無理だ」と思ったらしく、最初に会ったもう一人のムカつく男を呼びました。2対1なら大丈夫だと思ったんでしょう。その馴れ馴れしい男を脇に控えて女は力を取り戻したらしく、話を私の内面的な所に持って来ました。

女「あなた、友達あまり多くはないでしょう?」
私「そうですね、そんなに多くはいませんねえ。深く狭く付き合う方なんで」
女「ちょっと内向的じゃないでしょうか?」
私「そうですね。よく解りますね。さすがだなあ」
女「…でも、それってあんまりいい事じゃないと思うんです。ここに入れば、あなたにもたくさん明るいお友達が出来ますよ。そうすればもっと世界が広がると思いますが」
私「………」

この女、自分がいつも明るい日向の中にいると思っていやがる。そして、性格や立場的に日陰(と見る)の中にいる私やその様な人々を憐れんでいて、優しく手を差し伸べるマリア様にでもなった気でいるのかもしれない。いや、勝手にそう思われるのも、偽善を装って悪事を働こうとするのも気に食わん。(結局ねずみ講だし)本気で救ってあげたいなんて思ってるんなら尚更許せん!

という結論に達し、もはやここに何の意味も無しとの断を下した私は突然「じゃ、私はそろそろ帰るんで。さようなら」と席を立ちました。女や後輩が慌てて「まだ話が」とか言いましたが私は無視する事にしました。ところが、そこであのクソバカ男が口を挟んで来たのです。「まあまあ。もう少しだけ話を聞かせてよ。とても為になるんだから」と抜かすので、「結構です。私には必要ありませんね」と思いきり冷酷に言ってやりました。するとさすがにムッとしたのか、男が「あなたにとってじゃあ何が大事なのか聞かせてくれる?」と高飛車に言いたれやがりました。

なんでお前なんかに私が私の人生を語ってやらねばならんのだ、ただでさえ気に食わないクソバカ男に?しかもその高飛車態度。お前は一体何様のつもりでいやがるんだ?とキレた私が「そんな事あんたに関係ないね」と怒鳴ってやり、それに逆ギレした男が「ああ、じゃあしょうがないですね」となげやりに言い返した所で私達の話し合い(とは言えないね)は終了しました。私が部屋を出る時、他のヒナ鳥達はまだおのおの囲まれていて、こんなに早く帰るのは私一人のようでした。みんな気が弱そうなヒナ鳥だったので、何人かは会員にされてしまったかもしれません。

以上が、私が体験したおもろ怖い勧誘話です。勝因は「真剣な問いかけにはちゃかしで返す」「キレる時はちゃんとキレる」という事ですかね。その後、何やかや取り繕う後輩に、半ば強引に泊めさせられたのですが、死ぬほど汚い部屋でした。掃除機かけたのいつだよってくらいでした。夜寝ていると、後輩にたぶんMなんとかっていう所から電話がかかってきていました。後輩は相手に謝っているような感じでした。そして次の朝家に帰りました。それ以来後輩とは会っていません。

応酬話法が上手いです。勧誘に向いてるかもしれません(^^;。

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