それはまだ、東海道を人が歩いて行き来していた頃の話です(って、おい)。当時はタイ○ライフとかいう会社から「うちの事務所は新宿副都心の高層ビルにあって一度来て下さい」という電話がたびたび掛かってきて私は心がささくれだっていました。大学生だった私が家でごろごろしていた時に、妹に関する勧誘の電話にたまたま出たわけです。「家庭教師の斡旋か学習教材の販売か」は、もう忘れてしまいました。
ねーちゃん「 |
こちら××の何某と申しますが、○子さんの進学のことで...あ、お父様でいらっしゃいます?」 |
狐「 |
ええ」(本当は兄貴) |
ねーちゃん「 |
娘さんの○子さん、いよいよ受験ですよねー。親御さんとしてご心配じゃないですか?」 |
狐「 |
いやー本当に心配ですよ。」 |
ねーちゃん「 |
そこで我が社のなんじゃかんじゃ(まったく覚えていない)のご案内を差し上げました。一度ご説明にお宅に伺いますが?」 |
狐「 |
あー、それは構わないんだけど、本当にうちの○子にも効果があるかな?」 |
ねーちゃん「 |
はい、大丈夫です。学習の度合いに応じて指導するシステムでして、どちらのお子さんにも公立の普通科程度に照準を合わせ、伸びによっては云々」 |
狐「 |
ふーん、判った。じゃ申し込みたいんで説明に来てよ。早い方がいいね」 |
ねーちゃん「 |
では○月○日の○時でいかかでしょう」 |
狐「 |
いいよ。その日程で必ず頼みます。くどいけれど、どんな子どもでも公立高校の普通科を目処に指導するんだね。もちろん本人にやる気がない場合は別だけれど、そうでなければその子に応じた指導を御社でしてくれるということだよね。『やっぱりお宅の子どもは指導は無理だ』なんてことはないよね」 |
ねーちゃん「 |
はい一生懸命に指導致します。なにより実績がございます!」 |
狐「 |
判りました。あなたを信頼してお願いすることにしましょう!あとうちの○子は今、◎◎養護学校に通っている重度の障害児だけれど(←これは本当)大丈夫だよね」 |
ねーちゃん「 |
え゛!」 |
狐「 |
◎◎養護学校の高等部に進む予定だったんだけれど、御社の受験指導により普通高校へ進学かあ。その子に応じた指導をしてくれるんだったね。」 |
ねーちゃん「 |
…」 |
狐「 |
意志疎通するのは身内でも困難だけど(←これは嘘)本人にやる気はあると思うよ。大丈夫だよね。さあ申し込むぞー」 |
ねーちゃん「 |
…」 |
狐「 |
○月○日にはあなたが来るの?あれ、どうしました?」 |
ねーちゃん「 |
…」 |
狐「 |
ねえ、うちの子どもの場合、御社のシステムは無理だよね」 |
ねーちゃん「 |
…ハイ」(小声) |
狐「 |
うちの事情を知らないで電話かけてきたんでしょ」 |
ねーちゃん「 |
…ハイ」(小声) |
狐「 |
それって、こちらの心の中に土足で上がり込むようなことだよね。面白いかい。」 |
ねーちゃん「 |
…イイエ」(小声) |
狐「 |
今日のこの電話のことはすぐに忘れてしまうだろうね。でも、あなたもいつか結婚して妊娠すると思うんだ。その時に思い出してよ。自分が電話でどれほど人を傷つけたか、必ず思い出して。いや、思い出すって。さあ、どんな子どもが生まれるかなー、でもどんな子どもだって大事な子どもだよ。勇気を出して産みなさいね。で、その子の受験の頃に勧誘の電話がかかってくるよ。あなたとお子さんの事情はお構いなしだよ。たとえ死産でもかかってくる。障害があってもかかってくる。とにかく産院のベッドで今日のこの記憶が蘇る。本当に産む勇気ある?大丈夫かなあ…」 |
誤解なきように付け加えますが「障害があるからどーした」「因果でこーなる」という話ではなく、名簿等で無神経に勧誘してくる奴を退治した、というだけのエピソードです。小学校のクラスメイトの女性が20歳前に交通事故で亡くなりましたが、その後も当然ながら晴れ着の案内がDMや電話でガンガンあったそうです。相手も商売なのでしょうが、受け取ったDMを処分するおばさんのことを思うと本当に暗然とします。
それはそうと15年前のねーちゃん、子どもさんが居ればそろそろ受験じゃないのかな。無神経な勧誘の電話は相手を思いっきりいやーな気分にさせてやればOKよん。ちょうど15年前にあなたがされたように(笑)