東京・北新宿の暮しの手帖社。来年で創刊六十周年を迎えるが、発行部数は一九七〇年代の百万部をピークに、現在は十六万五千部まで落ち込んでいる。
■「商品テスト」復活
「新しく目指したのは、想定する読者の年齢層を三十代にまで若返らせ、広げたことですね」
昨年十月、外部から就任した五代目編集長の松浦さんは、最新刊を手にこう話す。
同誌の看板企画「商品テスト」を一年半ぶりに復活させた。そこで、子どもの居場所が分かるというGPS(衛星利用測位システム)付き携帯電話が都会の繁華街や住宅地で実際に役立つのかどうかを特集したのも、そんな狙いからだ。
「もともと三十、四十代の暮らしを中心に考えていた創刊当時に、少し戻そうという試みです」と、老舗ゆえの編集方針の難しさを振り返る。
最盛期の核だった読者が、この三十年間で五十代、六十代、七十代へと年齢を重ね、その人たちの要望に応えようと努めてきた。その結果、老人ホームの入居の仕方や福祉の問題などの特集が増えてしまったという。
「高齢者を切り捨てようというのではなく、同じ老人ホームの話にしても、若い人たちが知りたい視点だってあるでしょう。リンゴの皮のむき方とか、年齢を問わない実用情報だってある」
同誌の最大の売りといえば、創業者で初代編集長の故・花森安治氏(一九一一−七八年)以来、広告を一切載せない中立的な編集方針だ。
■“スポンサー”不変
「『何だ、何も変わってないじゃないか』と批判する人がいるくらい、基本は変えていない。歴史もあり、乱暴なことはしたくない。長年愛されてきた魅力を際立たせるような仕事をしたい」
現在はさまざまな生活雑誌があり、消費者センターが商品テストを行うなど、競争相手は多い。しかし、「われわれのスポンサーは読者ですから」と、松浦編集長は意に介そうとしない。
「ビジネスの側面が強い雑誌と競って、何かをやり遂げようという気はない。部数は大切ですが、六十年も続けてこられたのは、広告がないという信頼性と、純粋に伝えたいことを伝えてきたという誠実さがあったからでしょう。この方針を守っていくしか生き残る道はないと思う」
今月二十四日発行の次号では、ランドセルについて特集する予定。「ランドセルなんか買わなくていいんじゃないか」との視点で切り込むが「純粋な疑問について調べ、書く。これが私たちにとっての誠実さです」。
そしてこう締めくくった。「花森の言葉に『暮らしが人をつくる』というのがある。今はその暮らしがおろそかになっているのではないか。暮らしを丁寧に見つめ直すよう訴え続けていけば、世の中が変わるんじゃないか。そんな私たちのメッセージが必ず届くと信じるしかない。鍋ややかんと同じように、普通にどこの家にもあるものとして残るのが理想です」
◇
「暮しの手帖」はA4変型、百八十四ページで九百円。隔月発行し、書店で販売している。同社営業部=電03・5338・6014。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20070305/ftu_____kur_____001.shtml